東京地方裁判所 昭和36年(ワ)2474号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕訴外佐藤源一は訴外川崎定徳株式会社の所有する本件土地を借地し地上に建物を所有していたが、佐藤は昭和三〇年九月七日死亡し、被告ら三名は共同で本件土地の借地権および本件建物を相続したが、昭和三二年一二月二日これらを訴外古賀貞芳に売渡したが、その売渡に際し古賀にたいし本件借地権の譲渡については被告らの責任において地主の承諾をうることを約束した。また古賀は昭和三四年四月二一日訴外安田長太郎(被告安田の夫)に本件借地権および本件建物を譲渡したが、その際古太郎に対し借地権の譲渡については古賀の責任で地主の承諾をうることを約定した。ところで原告は昭和三四年六月二九日長太郎に対し金七〇〇万円を貸付け、別途貸付の金三〇〇万円をあわせ金一、〇〇〇万円の債務を昭和三四年八月二一日までに完済しないときは、みぎ債務の弁済に代えて本件借地権を原告に譲渡する旨を約した。しかるに長太郎は約定の期限に右債務を弁済しなかつたので原告は右代物弁済契約の条件成就により本件借地権を取得した。ところが被告らは前記古賀のため本件借地権譲渡について地主である訴外会社の承諾をうる義務を負い、しかも本件借地権が古賀から長太郎を経て原告に譲渡されたことを知り乍ら、不法にも昭和三四年八月三一日訴外会社にたいし本件借地権を放棄し、訴外会社は本件土地を訴外佐藤ちよに賃貸し、原告は遂に本件借地権譲受について承諾をうることはおろか借地権自体を喪失する結果となつた。そこで原告は被告らにたいし借地権の価格金五〇〇万円の損害の賠償を求めると述べた。
判決は、本件土地の借地権及び建物所有権が原告主張どおりの経緯で安田長太郎に帰属したこと、原告と安田長太郎との間に原告主張どおりの貸借ならびに条件付代物弁済契約の成立したこと、ならびに長太郎が弁済期に債務の弁済をしなかつた事実を認定したが、長太郎が原告への借地権譲渡につき地主の承諾をえていないことは原告の主張自体において明らかであるから原告は地主に対抗しうる借地権を取得しえない。したがつて要物契約たる代物弁済契約は未だ成立せずとして原告の主張を排斥しその請求を棄却し、つぎのとおり説明している。曰く。
「原告は以上の事実に基いて停止条件成就による代物弁済によつて本件借地権を取得したと主張するけれども、本件の場合は未だ代物弁済は成立しておらず従つて原告の長太郎に対する前示債務は未だ消滅していない。すなわち代物弁済にあつては本来の債務の弁済に代えて他の一定の給付をなすことを要するものであるが、ここにいう給付とは単なる権利の移転を指すにとどまらず、それが不動産であれば登記を、動産であれば引渡をというように、権利の移転に対抗要件が必要である限り、債権者に対抗要件を具備せしめることまでを含むものと解すべきであるから本件のように債務の弁済に代えて借地権の譲渡とそれについての地主(賃貸人)の承諾を得ることによつて始めて要物契約たる代物弁済の成立を認め得るものと解するのが相当であるところ、借地権の譲渡について地主(訴外会社)の承諾を得ない間に後記認定のとおり原告は本件借地権を喪失して了つたことはその主張自体から明らかであるから、長太郎から原告へ本件借地権が一応譲渡されたものと解し得られるにしても未だ代物弁済が成立し原告の長太郎に対する前示債権が消滅したとは解せられないわけである。」